自然の造形
県立美術館で開催されている「アルフォンス・ミュシャ展」を観にいった。
アール・ヌーヴォ(新しい芸術)で活躍した装飾画家のひとりだが、その華やかさの割には色はくすんでいた。リトグラフの技法を使って、広告紙や本の装丁として作られたため、色が褪せてしまったのか、あるいはもともとそのような色合いだったのかわからないが、そのセピア色的な地味な色合いに興味を覚えた。
人物画の頭や周囲に草花が精密に描かれており、恐らく繰り返し繰り返し自然の様々な植物を丹念に模写した様子がうかがえる。私が特に興味を持ったのは、ツタを描いた作品であった。その葉や曲がりくねった蔓の描写は明らかに、自然の造形からヒントを得た構図に違いなかったからである。その曲がりくねった構図が装飾の図柄に反映されている。もちろん女性の顔やなめらかな着衣、細い手足なども曲線美を活かして装飾世界を創り出しているが、その原形は明らかに自然から得たものに間違いない。
ミュシャは旧チェコスロバキアの出身である。79歳まで生き延びたが、若い頃パリで活躍し、演劇のポスターや広告を描いて一躍有名になった。19世紀末の退廃と混乱の象徴とされ、戦後一時評価が下がった時期があったが、彼の描いた世界はそれだけではなかった。パリから帰国した後は、農民や労働者も描き、ドイツ・ナチズムの侵攻のなかで祖国団結のポスターも作成している。そのため、既に老齢であったにもかかわらず、ナチに捕らえられ、それが原因で体調を崩し、亡くなったという。
アール・ヌーヴォといえば華やか装飾画をイメージしていたが、そのセピア色の原因が分かるような気がした。作品の優雅さや、異国での評価と名声にもかかわらず、その作品にはどこか寂寥が漂っている。ナチズムの迫害にあったとはいえ、79歳まで生き延びた裏には、自然に対する崇拝と信仰があったのかもしれない。
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投稿: みんな の プロフィール | 2007年12月11日 (火) 03時54分