本多寿詩集『日の変幻』新聞書評
昨年暮れ、本多寿さんが『風の巣』に続いて、『日の変幻』を上梓されました。今回も依頼されて宮崎日日新聞紙上に書評を寄稿しました。その内容です。
これは自然との対話から生まれた詩集である。
著者は宮崎市郊外で「鳥の囀りと風の音でめざめ/虫の声を聴きながら眠る」生活をしている。目を凝らして観ると自然界は日々変化する。「日が輝きはじめると/枝々の木の芽はたちまち芽吹き/みどりの若葉がしげった」。水の中のヤゴがトンボになり、地中の虫がセミになるように、昨日あったものが今日はない。
変化する世界は、草花や昆虫、樹木、野鳥から、村落、災害、地球、天体にまで及ぶ。そこに生起する多くの誕生と死。死を意識して生が豊かになることを静かに語っている。それでもなお襲ってくる哀しさ寂しさのなかで「空に問いつづけている/空は なぜ/こんなにも美しいのか」と。大いなるものへの問いかけに終わりはない。答えは見つからないまま「怒りに躓かず 寂しさに溺れないよう/草木に倣って生きる」しかないのだ。
日々の生活のなかでふり向けば、もの言わぬものたちが寄りそっている。「草も 木も 花も寄り添い/寄りそわれてきたもの/きょう、それを/愛と呼んでみた」。共に生きる草花や樹木に改めて勇気づけられるのである。
その認識は「犬が近づけば犬の影と/山が近づけば山の影と/わたしの影がひとつになる// あゝ 皆 おなじなのだ//わたしたち/姿かたちは 皆 異なっているが/おなじ光を与えられている/おなじ影を与えられている」と広がる。さらに「日とともに あなたをめぐる/日とともにわたしをめぐる//略//日のあるかぎり/死ののちもなお//あなたから わたしへ/わたしから あなたへ」と。命の循環で輝いている自然。そこに死を前にしての安らぎも生まれてくる。
私はこの詩集を答えの出ない事態に耐える力として、緩和ケア、グリーフ・ケアとして、さらにアニミズムと純粋詩の昇華として読んだ。
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